KARENTでは初音ミク5周年を記念して楽曲をお届けいたします。
maloさんの楽曲『ハジメテノオト』のストリングスアレンジバージョンです。
どうぞお楽しみください。
今回のストリングスアレンジはDIGITAL SONIC DESIGNの関美奈子さん、関正道さんに行っていただきました。
音源には質感と奏法の再現度が高いと評判のAUDIOBRO社のストリングス音源「LA SCORING STRINGS」が使用されています。
お二人のコメントと併せて楽曲を聴いてみてはいかがでしょうか。
アレンジャー
関美奈子さんからのコメント
アレンジを担当いたしましたDIGITAL SONIC DESIGNの関 美奈子です。
今回のアレンジにあたり初めて「ハジメテノオト」を聴かせて頂きまして、一番印象に残ったのは歌詞の内容でした。ですので、その歌詞の内容の流れに添うような手法でアレンジを構成することを目指しました。
初音ミクのユーザーの方には初めてインストールして発音したときの、初音ミクに触れたことがない方であれば初めての楽器体験など、歌詞にもありますが、「音を出すことができた!」という宝物のようなキラキラした、そしてこれからどういうことができるのかな?という「ワクワク」感。また、時間が経って忘れかけていた、その「初めての気持ち」を思い返すノスタルジーなどが表現できたらと思いました。ところどころに歌詞の内容に寄り添うアレンジをし、一度だけでなく何度かお聴き頂いても新しい発見があるようなアレンジも目指しました。
最後に、このような素晴らしい機会をくださったクリプトン・フューチャー・メディア株式会社様、作曲のmalo様、そしてこの音源をお聴き下さる全ての皆様に心より御礼申し上げます。
この新しいアレンジの「ハジメテノオト」、なにかあなたに届きますように。
マニピュレーター
関正道さんインタビュー
今回はLASSの特性を引き出すためのアレンジを兼ねていたので、奏法をなめらかにつなげることに特にこだわりました。
プロフィールのご紹介をお願いいたします。
新しモノ好きでMacとProToolsが無いと生きていけない、Sound Designerという音の何でも屋です。
LA SCORING STRINGS 2.0の魅力について教えてください。
LA SCORING STRINGS 2.0(以下LASS)の魅力はディビジを含め細部までコントロールできるパラメータの豊富さにあります。初心者の方には、パラメータが多すぎて使いこなせないだろうとか、覚えるのが大変そうとか感じてしまうかもしれません。プロの制作現場であれば、そこまで打ち込みで作るくらいなら生演奏をレコーディングした方が早いと感じてしまうかもしれません。
しかし私にとっては、アナログ・シンセサイザーが膨大なツマミやパッチによって1つの音色を作り出し、その操作にワクワクしていた気持ちがLASSにはありました。
実際LASSを鳴らしていて、どんどん音が膨らみ演奏が呼吸をし始め自分がオーケストラを指揮したり、オケの中で演奏している様な感覚になる事があります。もしかしたら、LASSは作曲者よりもマニピュレーター向けのマニアックな音源なのかもしれません。しかし、慣れてしまえばコントロールもそれ程難しくはないですし、その表現力は曲作りにも影響するかもしれません。
是非、LASSの個性を引き出した、多くのミュージシャンの音楽を聴いてみたいですね。
制作環境について教えてください。
MacPro 2.4Ghz 12core(48GB memory)にProTools HD10.2、Vienna Ensemble PRO 5(以下VEPro)に立ち上げたKONTAKT5.0.3上でLASS2.0.1のパッチをロードし、マニピュレーションしました。環境について詳しくは私達のWebサイトの「Sound Designer'ss Booth」に掲載しています。アレンジャーの関 美奈子は「Composer'ss Booth」に掲載している環境でアレンジしました。
アレンジャー:関 美奈子さんとはどのようにやりとりされたのでしょうか?
アレンジに関しては関 美奈子に全て任せました。アレンジがひと通り完成した段階で聴かせてもらい、どういう方向性でアレンジしたかを説明してもらいながら表現を強調したい部分などの打ち合わせをして、私の環境で本格的なマニピュレートの作業に入りました。
お互いProToolsで制作しているので、データのやり取りに関してはセッションデータを受け取るだけで終わりますが、彼女は彼女なりにトラックを整理しながら作業しているので、私の環境では自分のテンプレートに置き換えてから作業を進めています。
今回のLASSの使い方について教えてください。
LASSは奏法ごとにパッチが分けられていますが、特殊奏法系以外(Bartok Pizzなど)は全てロードしました。VEProに立ち上げた1つめのKONTAKTに「Vn1FC」(首席ソロ)の各種奏法、2つめのKONTAKTに「Vn1A」(ディビジA)、3つめのKONTAKTに「Vn1B」(ディビジB)という感じで、1セクションあたり4つのKONTAKTを使いました。フルストリングスには5つのセクション(Vn1, Vn2, Va, Vc, Cb)がありますので、計20個のKONTAKTを使いました。
ProTools側では各KONTAKTに対応するMIDIトラックを作り、ディビジパート毎にラインを書いています。奏法はLASSのARCを用いてキースイッチで切り替えてるようにしました。
今回のマニピュレーションについて教えてください。
今回はストリングスのみのアレンジなので、まずボーカルのメロディーと一番絡んでいるVn1(ファースト・ヴァイオリン)から作業を始めました。この作業で曲の流れや音の呼吸など、おおよその表情をつけていきます。もちろん、各ストリングスセクションとの絡みもあるので、後々手直しをしています。
次にVn2(セカンド・ヴァイオリン)をやろうと思ったのですが、Vn1でかなり体力を消耗しまして・・・(笑)土台のCb(コントラバス)を作業しました。これによって曲全体の輪郭が見えるので、そこからVc(チェロ), Va(ヴィオラ), Vn2の順番に和声の中の動きを構成していきました。
こだわった点を教えてください。
今回はLASSの特性を引き出すためのアレンジを兼ねていたので、奏法をなめらかにつなげることに特にこだわりました。最終的にMIDIで調整しきれない部分はオーディオ化してから調整したのですが、最初やりすぎまして、楽器の呼吸が消え、機械的な音になってしまいました。MIDI段階のラフな方に戻したのですが、LASSってこういう生のラフさも狙って作られているのかなと思いました。
あとこだわった点といえば、ストリングスの各セクションの絡みをどう整理して聴かせるかという部分でしょうか?ここまでくるともう、指揮者の悩みと一緒ですね。あと実は・・・・ボーカルのエディットをさせら・・・ふがっぐふぅ(Macしか持っていなくてVOCALOIDは・・・)
今回、関正道さんにはミックスも行って頂きました。今回のミックスについて、簡単に教えてください。
LASSはパッチにEQが用意されており、デフォルトではOnになっているのですが、今回はそれを全部Offにして演奏させました。各トラックのバランスはMIDIの段階でほぼ作り込んでいるので、オーディオ化してから膨らみすぎた帯域を抑える程度のEQとコンプをかけます。ミックスと言うよりもバランスの微調整という感じが近いかもしれません。
最初はステージ上でストリングスセクションをバックにミクが歌い上げている映像が思い浮かぶミックスにしてみようかと思ったのですが、ミクの声がストリングスセクションに負けてしまったので、空間を聴かせるよりも、ミクを囲むストリングスセクションというイメージのミックスにしました。
最後にひと言お願いします!
実際に弦楽器の演奏は難しく、演奏家は幼い頃から練習を積み重ね、長い時間をかけて美しい音を奏でます。MIDI演奏でも、演奏家が出す音に近づく為に音源が発達してきましたが、近づくにつれ音源の仕様が複雑になりコントロールするパラメータが多くなります。
演奏家達の汗と涙の努力でなし得た音色をソフト音源を買っただけで鳴らせてしまっては、演奏家達に申し訳ないと私は感じます。ですから、演奏家の方々へ敬意を持ち、実際の演奏を観たり、聴いたり、楽器に触れられる機会があれば、どういう原理で音が鳴っているのかを研究し続けることが大切だと思っています。
その努力を重ねていけば、音源の膨大なパラメータが何の為にあるのかを自然に理解できると思います。「練習を重ねて上手くなる」という意気込みでソフト音源を演奏させましょう。
DIGITAL SONIC DESIGN
関美奈子(作曲・編曲)と関正道(サウンドデザイナー)による音楽音響制作ユニット。
主に映像、アニメ、ゲーム、ラジオドラマ、ドラマCD、イベント等の楽曲制作、効果音制作、MA、台詞編集等のサウンドデザインを手がける。
代表作
楽曲制作:
アニメ「キングダム」 / ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記 / ベルウィックサーガ / 大戦略1941~逆転の太平洋~ / ポケモンバトリオ / Clash of the Titans: タイタンの戦い / ダライアスバースト リミックス ワンダーワールド(アレンジャーとして参加)、他多数。
サウンドエフェクトデザイン・サウンドディレクション:
グランツーリスモ 1 / グランツーリスモ 2 / グランツーリスモ 3 / 俺の屍を越えてゆけ / 絢爛舞踏祭 / FRONTIER GATE、他多数。